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感情の錬金術(アルケミー)


中世のヨーロッパには、錬金術師(アルケミスト)と呼ばれる人たちがいました。 彼らは表向きには、卑金属から貴金属を精錬するための研究をしている

学者のような存在でした。 しかし、それはキリスト教会からの迫害を逃れるための仮の姿で、

彼らは心を変容するための “内面的な取り組み” をしていたと考えられています。 おそらく「卑金属」とは、恐れや怒りや嫉妬といったネガティブな感情を意味し、

「貴金属」とは、純粋な意識を意味していたのでしょう。

中世の錬金術の道具

東洋のチベット仏教の伝統でも、感情のエネルギーを智慧に転換するという、

錬金術的な教えが伝えられてきました。 僕は若い頃、気分の落ち込みや慢性的な劣等感、対人不安の発作などに、

5年間ほど苦しんだことがあります。 そんな時期にチベット仏教の本に出会い、独学で試したのですが、

そうした不快な感情は、たしかに澄みきった意識の広がりや、

どっしりとした自己感覚へと変容されてゆきました。 この体験から言っても、

感情の錬金術は、決して難しいものではありません。

それは、あなたが何もしなくても、自然に起こるからです。

必要なのは、変容が起こるのを信頼して待つ、忍耐力だけ。 いたってシンプルなプロセスです。 普通、人は、何らかの感情が生じると、パニックして

それを押し殺そうとするか、それに完全に溺れて何かしてしまいがちです。 若い頃の僕もそうでしたが、

多くの人は、落ち込みや不安などの感情が突然こみ上げてくると、

それに圧倒されて、自分がダメになってしまうのではないかと恐れます。 しかし、そう思って感情を抑え込むことは、

それに抵抗していることになり、抑えられた感情はいずれ出てきて爆発します。 一方、怒りや悲しみなどの感情が湧いてきた時、

それを肉体的に表したり言葉にして発散すれば、心を癒せるように

思うこともありますが、実際には、かえって感情を強くしてしまいます。 感情の錬金術は、感情を抑圧も発散もしない、第三のアプローチです。

それを実践するには、まず感情の本質を理解しておく必要があります。 感情というのは、思考に対する身体の反応であり、

その種類によって、消極的であったり攻撃的であったりしますが、

どんな感情も、基本的には単なるエネルギーの高まりに他なりません。

もし、今度、過去の辛い記憶が蘇って、悲しみや怒りがこみ上げてきたら、

そのエネルギーの高まりを余すところなく徹底的に体験し、

その強さや質感がどう変化していくか、自覚し続けてみてください。 その際、注意すべき点は、

頭が次々と思考を紡ぎ出すままにしておくと、

過去の物語にハマって、感情に溺れやすいということです。 そのような状態では、思考や感情に対して無意識なので、

感情がさらに記憶を呼び覚まし、その思考がさらに感情をかき立てるという

悪循環に陥ります。 ですから、記憶に反応して感情がある程度高まってきたら、

いったん思考は脇に置き、意識的にエネルギーの高まりを自覚してみてください。 いつもは無意識でいたけれど、今回はどれほど苦しくても、

エネルギーがどう変化していくのか最後まで見届けてみよう…

そういう意思を持って臨むのです。 そうすれば、湧き上がる感情をただ体験するだけではなく、

自分の方から感情に向かってゆくような感覚になります。 そうやって、エネルギーの高まりを自覚しながら

何もせずに忍耐強く待っていると、

それはやがてクライマックスに達し、ひとりでに鎮まってゆきます。 そして、それに伴って、

今ここに、深遠な静けさや澄みきった広がりが存在していると

実感できるようになるでしょう。 感情の錬金術のコツをひとたび掴めば、

あなたは誰にも頼ることなく、

人生で経験するどんな感情にも取り組めるようになるのです。

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