ゾーンに入る
「生命そのものの力」という過去記事で、 高みに向かってどこまでも成長しようとする人物の具体例として、
フィギュアスケーターの羽生結弦さんと、棋士の藤井聡太さんを挙げました。 彼らは、自分の天性に合った道で、素晴らしい才能を開花させていますが、
エンジェルスで大活躍している大谷翔平さんや、
先日のウルグアイ戦で、攻撃の中心になっていた中島翔哉さんなども、
まさに “生命そのものの力” を発揮している典型だと思います。
中島選手は、試合後、記者たちからの質問に、
次のような実にシンプルな答えを返していました。 「楽しくプレーすること。それをとても大事にしています。
今日もすごく楽しめたので、チームメイトに感謝しています」 どこが楽しかったのか、具体的に聞かせて欲しい、と訊かれると、 「すべてです。ボールを持っている時も、そうでない時も。
楽しくやろうと考えてしまうと、なかなかできないので、自然に。
ずっとサッカーをやってきたから、
考えなくても体が勝手に動いてくれると思っています。
迷うことが一番良くないですね。
強い相手は好きですけど、どの舞台、どの試合、どの練習でも、
サッカーは常に楽しいもの」 と答えていました。
真剣勝負の試合中でも、天真爛漫な笑みを浮かべることが多い中島選手。 いかにも “生粋のサッカー小僧” らしい発言ですよね。 でも、実は、どんな強敵にも自在に対応できる “達人の極意”
とでも言うべきものをサラリと語っているように、僕は感じました。
というのも、いわゆる「ゾーン」に入るために最も大切なのは、
自分のやっていることが大好きである、ということだからです。
「ゾーン」とは、活動に完全に没頭し、圧倒的にハイレベルなパフォーマンスが
自然に発揮できるような状態を意味しています。 そしてゾーンに入るには、「今を生きる」意識を持つことが重要になります。 過去や未来について余計なことを考えず、
現在に完全に注意を払って、今に在る時、ゾーン体験が起こってくるのです。
その時、意識は小さなエゴから解放され、
すべての生命の〈源泉〉と調和し、ひとつになります。
この〈源泉〉から起こってくる卓越した行為は、
エゴの意志で作為的にコントロールできるものではありません。 自分がしているという感覚すらなく、
生命そのものの力に乗っ取られ、勝手に体が動いているように感じます。 ちなみに、こうした、行為する者がなく、ただ行為だけがある状態を、
老子や荘子は「無為の為」(作為のない行為)と呼びました。 そして、ゾーンに入ることは、素晴らしい成果をもたらしてくれるだけでなく、
その経験自体が躍動する生命感やエクスタシーに満ちた幸福な体験でもあるのです。 だからこそ、ゾーンに入っている人の表情や身のこなしは生き生きとしていて、
とても魅力的であり、その神懸かったパフォーマンスに触れる時、
誰もが胸を踊らせたり、深い感動を覚えたりするのでしょう。